日本海深層循環の形成機構に関する数値実験

キーワード:日本海深層流,海底地形,傾圧不安定,二次元乱流

日本海の深層には,日本海全体をぐるっと反時計回りに一周する流れが存在する ことが,最近の観測(永野 2000)で明らかになって来た.しかしこのような流 れは,深層循環の標準理論であるストンメル・アーロンス理論(Stommel and Arons 1960)から予想される流れとは大きく異なる.観測と理論が一致しない! おそらく観測も理論も間違いではない.観測はきちっと行われているし,理論も 実証例がある.ということは…?

ストンメル・アーロンス理論は,深層循環形成の力学的仕組みを説明する理論だ けど,ストンメル・アーロンス以外の仕組みもあるのではないか,日本海ではそ の新たな仕組みがあるのではないか,と考えた.

観測によると,日本海深層では強い渦がいくつも見られる.二次元乱流の理論に よれば,このような渦は,非線型相互作用によって,水平規模がどんどん大きく なる.日本海の場合,一番大きくなった渦が,日本海全体をぐるっと一周する流 れになったと考えることができる.これがもう一つの力学的仕組みか….

この予想には,以下の二つの問題が残されている.

  1. 最初の渦がどのようにしてできるか
  2. 日本海全体を一周する流れ(渦)は何故反時計回りなのか(何故時計回りで はないのか)
予想としては,最初の問題の答えが黒潮起源の対馬暖流,二つめの問題の答えは 海底地形と地球の自転,かな.とりあえず,数値実験してみよう…!




出ました出ました.観測結果と定性的に一致する深層循環が出ました.上の予想 はあたっているか,力学バランスを調べたら…,

  1. 対馬暖流の不安定(傾圧不安定)が渦を生成.ただし,時計回り・反時計回 り対称な渦を形成.
  2. 海底地形と地球自転による制約(渦位の保存による制約)のため,反時計回 りの渦のみ選択される.
ことが分かった.

さらに詳しく調べると…,長くなるのでこの辺で止めます.この研究で,日本海 の深層循環が,ストンメル・アーロンス理論と異なる仕組みで駆動され得ること が示せた.