対馬海峡での対馬暖流

〜東と西とで何でこんなに違うのか〜

キーワード:対馬暖流,海洋短波レーダー観測,季節変化,渦

はじめに

日本海南部に黒潮起源の亜熱帯水を輸送する対馬暖流.対馬海峡は,この対馬暖 流が必ず通過する所.そこで対馬暖流の変動を計測すれば,日本海南部の海洋環 境の変化が理解しやすい.このため,これまで多くの計測が行われ,その特性の いくつかが分かって来た.例えば,西水道の方が東水道より流れが強い,東水道 では対馬暖流はほぼ中央を流れる,対馬沿岸には南西向きの反流が見られる等…. しかししかし,それらの結果をよ〜く見ると,お互いに矛盾する観測結果もある. 例えば九州沿岸では北東に流れるという結果もあれば,いやいや同じ時期でも南 西向きだという結果もある.何で結果が異なるのか….何が本当なのか….

これらの疑問を解決するため(と言っても最初からこの目的で始めたわけではな いが),対馬海峡に海洋短波レーダーを設置し,流動構造を毎時刻計測してみた. 海洋短波レーダーは,陸上から海面に向け電波を送信し,後方散乱した電波を受 信することで,表層の海流を計測する優れもの.陸上からのリモートセンシング なので,海が時化ても計測できるし,結果は研究室に居ながら毎日送られて来る し,楽だな〜,いやいや,すばらしいな〜.(※最初は大変苦労した.楽だと思う には時間がかかった.今でも苦労している人もいる.)

季節変動

まず,対馬暖流の季節変化を調べるため,月平均の流速場を計算し,夏と冬とを 比べてみた.

西水道
流速の変化=大,空間構造の変化=小
東水道
流速の変化=小,空間構造の変化=大
おお,対馬暖流ってこんなに変化していたのか!特に,夏の東水道の流動構造は, 中央に北東向きの対馬暖流,左右両側(福岡沿岸と対馬沿岸)に南西向きの反流 が形成されているのが,はっきりと見える.こんな図どこかで見たことあるな…. そうか,川で石の後側にこういう渦が良くできるな.ということは,この渦はど うやら対馬暖流(=川)が対馬と壱岐(=石)の背後に形成する後流渦か!しか し何で冬にはこのような渦はできないのかな….

単周期変動

次に一時間毎の計測結果を調べてみた.するとすると,今度は東水道にも西水道 にも反時計回りの渦が見えるぞ.ほー,本当に変動が激しいんだな,対馬海峡っ て.

ん,でも待てよ,良く見ると東水道は6〜11月に渦が見られるけど,西水道は 12月〜3月にしか見られないぞ.東と西とで,単周期の渦の発生時期が異なる! ということは,渦を作る仕組みが違う!?

まとめ(まとまってないが…)

海洋短波レーダーによる観測によって,今まで知られていなかった対馬暖流の変 動の様子が良く分かった.おかげで,これまでの観測では矛盾していた事,例え ば夏の九州沿岸での流れの向きは南西であることが,明確に分かった.しかし, 一方で,分からないこと・不思議なことも分かったこと以上に増えてしまった. 知れば知るほど分からないことが増えて来るのは,人間関係と同じか.疑問が出 たら,答えねば.結局,悩みが増えた.