暖水プール内部(パプアニューギニア沿岸)の沿岸水温変動とエルニーニョの発生との関連性について
観測データ解析によってパプアニューギニア(以下、PNG)北岸沖(右図参照)において、2002/03年エルニーニョ開始前(2001年12月)に沿岸湧昇が発生し、同時に同海域周辺において海面水温の冷却が見られることが長谷川さんの研究で分かってきていますが、今回、この低海面水温の領域が西部赤道太平洋に拡大し、西部赤道域の海面水温の東西勾配が強化される様子も観察されました。これは、西部赤道域において西風偏差の強化を導くことによって、warm poolの東進を開始させ、2002/03年エルニーニョ発生に寄与した可能性を示唆しています。我々の研究グループでは、この解析を進めて、4次元データ同化の計算結果を用いて、海上風とそれによる沿岸湧昇、そして引き起こされた水温変動による大気の局所的な対流が発生する過程について追跡しました。
1997/98エルニーニョの発生に先行する1997年3月中旬において、28.5℃以下の低海面水温域がPNG北岸(4°S-EQ, 135°E-145°E)に見られます(図1)。同時期には、PNG北岸に向かって28℃等温線深度が浅くなっており、これは沿岸湧昇の特徴と一致する。さらに、この時期にはPNG北岸沿いに沿岸湧昇を導く西風が分布しています。これらは、この低海面水温の発生要因の一つとして、沿岸湧昇が寄与する可能性を示唆する結果であり、OFESや歴史的海面水温データを用いた結果(e.g., Hasegawa et al.
2009改訂中)と一致します。
次に、海面水温、海面気圧、東西風の赤道沿い時間経度断面図を作成することによって、低海面水温期における大気海洋変動を調べると、海面水温と海面気圧の時間経度断面図(図2)から、28.5℃以下の低海面水温域が東向きに拡大する様子がわかります。この低海面水温域には、高い海面気圧(1008〜1011hPA)が同時に存在する様子がみられました。一方、155°Eより東部では西部と比較して海面水温が高くなっており(29℃以上)、低海面気圧(1006〜1008
hPa)があることがわかります。このように、正の海面水温東西勾配に対応して負の海面気圧東西勾配が存在していることから、高気圧(低水温)域と低気圧(高水温)域の間で、海上風の西風強化が導かれるのではないかというストーリーが得られました。実際に、海面気圧と海上風の赤道沿い時間経度断面図からは、強い西風が、この高気圧領域と低気圧領域の中間(145°E 付近)で分布する様子が確認されました。
これらの結果から、PNG沿岸湧昇期に見られる低海面水温と関係する正の海面水温東西勾配が海面気圧変化を通じて、1997/98年エルニーニョ発生前の西風強化に寄与した可能性が強いことが分かります。