水平シアー流中の対流に関する数値実験

キーワード:筋状対流,水平シアー流,木星?

海洋深層水は,冷たい強風で冷やされ重くなった海面近くの海水が,深くまで沈 み込むことで,つまり対流によって形成される.そう,味噌汁の中の上下運動と 同じ.あるいは,空に見える雲と同じ(あれは地面で温められ軽くなった空気が 上に昇る).味噌汁や大気の対流はじ〜っと観察すれば良いが,海洋中の対流は そうもいかない.そんな冷たい強風が吹き荒れる海で,船で観測する事は大変だ から….というわけで,海洋でも対流が生じていることは誰でも知っている(認 めている)が,その実態は誰も知らない.


それなら,数値実験でいろいろ調べてみよう,と思うのが研究者の世の常.数値 実験は現実とは違うけど,こういう状況ではこうなりますよ,ああいう状況では ああなりますよ,と整理しておくことは,観測結果を理解する上でも役に立つ. そこで,比較的現実に近い(だろうと思われる)状況を設定して,海洋中の対流 に関する数値実験を行ってみた.


すると,発生した対流は,筋状に組織化されていた.これどこかで見たな….そ うだ,冬の日本海上空に見られる筋状雲だ.どれどれ,日本海上空の雲が何故筋 状に組織化されるのか,論文を見て調べてみよう.浅井先生の有名な論文(Asai 1970,Jouranal of Meteorological Sciety of Japan)があるな.なになに,周 囲の風(海の場合は海流)に鉛直シアーがあれば,対流は風の方向に組織化され る….なるほどなるほど….


ん?ちょっと待てよ,今回の数値実験にあるのは鉛直シアーでなく水平シアーだ ぞ!それに,筋状雲の方向は海流の方向ではなく斜めに向いているぞ….別の論 文にあたろう.たった一つだけ見付かったぞ(Davies-Jones 1971,Jouranal of Fluid Mechanics).どれどれ,読んでみると「線形解析の結果,水平シアー流 中の対流は,流れの方向に組織化される」!?あれあれ,筋状に組織化されるの は良いが,向きが今回の実験結果と違うぞ.Davies-Jonesの線形解析(理論)で は周囲の流れと並行,今回の数値実験では周囲の流れを横切る方向….むむむ, 理論が違うのか,数値実験が違うのか….

こういう場合,数値実験の方が怪しい場合が多いから,詳しく調べた(結構しつ こく調べた).けれど,数値実験は間違っていなかった(良かった!).結局, 線形解析に問題があった.正確に言えば,「線形解析の適用範囲には限界があっ て,地球(あるいは惑星)の自転の影響が強い場合には,適用範囲外の現象が出 やすかった」ということだった.普通そのような適用限界にはあまり意識を払わ ないので,矛盾しているように見えただけ!あぁ,理論って恐いなぁ…(数値実 験はもっと恐いけど…).


さらに詳しく調べると,水平シアーの強さに応じて,円状対流(味噌汁の中の対 流と同じ),斜め筋状対流,並行筋状対流の三通りが発生することが分かった.


これだけでは「実験したらこうなった」で終わってしまうので,線形解析でこの 現象を扱えるように,解析解にちょっと工夫した(これも時間がかかった).で きたできた,これまでの線形解析では適用できなかった範囲まで,適用できる線 形解析方法をみつけたぞ.具体的には….


これ以上の説明は,数式が無いと出来ないので止めときます.水平シアー流 中での斜めに横切る対流は,木星の筋雲を説明するかも知れない(あまり自信な いが…).


この研究内容はJournal of Fluid Mechanicsに論文として掲載されました.