勢水丸実習航海(2021/07/27-30)

2021年7月27日〜30日、三重大学生物資源学部の勢水丸で行われた観測航海の日記です。

0日目 7/27

この日は岸壁に係留された勢水丸に前泊しました。朝に京大を出発し、観測機器ととも に車で松阪港に向かいます。一等航海士さん(船では「チョッサー」と呼ばれていまし た)や二等航海士さん(「セコンドオフィサー」)、三等航海士さん(「サードオフィ サー」)に船の色々な場所の案内や船での生活の指導、非常時の行動や役割分担等の安 全教育をしていただきました。「チョッサー」など、船員さんをそれぞれの役割で呼ぶ というのは、船ならではでとても新鮮でした。

船の操船をしたり観測機器を操作するブリッジ等を見学しました。いつもは数値シミュ レーションや観測のデータ解析を主な研究手法としている私たちにとっては、実際に海 に出て観測をする船には、初めて見たりさわる機器も多く、わくわくしました。京大か ら持ってきた観測機器の組み立てや取り付けを行いました。風速計を船首に取り付ける 作業では、根田先生とOくんのばっちりの連携が見られました。Oくんは左手にニッパー を持ち、ポケットには結束バンド、右手にペンチを持ち、まさにオペ室での助手のよう に根田先生の指示通りに動くのでありました。海中の乱流を計測する機器の組み立てで は、事前に京大で練習していたこともあり、学生が中心になって組み立てを行いました。 やっぱり事前準備は大事ですね。

ひととおりの準備を終え、松阪で夕食や買い出しをして、船に戻りました。夕食では回 転寿司を食べましたが、みんなが食べ終わる頃に茶碗蒸しを頼んだIさんは猫舌である のにも関わらず、急いでアツアツの茶碗蒸しを口の中にかき込むのでありました。夕方 には空がピンクに染まった綺麗な夕焼けを見ることができました。明日は天気で風も波 も穏やかでありますようにと願いながら、就寝です。


観測に必要なものを車に積み込んで京大を出発

今回乗船した勢水丸

風速計取り付けの様子

乱流計組み立ての様子

出航前日の松坂港の夕焼け

1日目 7/28

1日目は、波を測るブイを投入したり、海中の乱流の計測を志摩半島の東南東あたりの 太平洋で行います。朝6:15起床で6:30から甲板でラジオ体操、船内の掃除をして朝食で す。停泊中といえど、船の朝は早い…。朝からみんなでラジオ体操をしたのなんて、お およそ10年ぶりです。この日は晴れ、問題は風と波です。

出港作業では、船員さんの息のあった動きとお互いの作業を確認しあう声、とてもかっ こよく見えました。伊勢湾から伊良湖水道を抜けて太平洋へ出ます。伊良湖水道を抜け る前までは、それほど船の揺れは大きくありませんでしたが、伊良湖水道を抜けるとや や揺れが大きくなってきました。数日前に通過していた台風の影響のようでした。「波 長の大きい波は減衰せずに遠くまで伝わってうねりになる」ことを身をもって体感する ことができました。その大きな揺れのせいでTくん、Mくんが船酔いになってしまいまし た。ダウンして甲板に寝る2人のことを、酔い止めを飲んで元気なOくんは写真を撮っ ていました(薄情なやつです)。

航行中にブリッジにお邪魔してレーダーを操作させていただいたり、私たちの乗る勢水 丸のすぐ近くを漁船が通過して船員さんたちが少しバタバタしている様子に遭遇したり しました。観測点に着くまでに、海中の水温、塩分、圧力を計測したり採水をすること ができるCTDの説明をセコンドオフィサーにしていただきました。CTD観測によって得ら れたデータを扱ったことはあったので、こんな機器でとられたデータだったのか!と感 動でした。CTD観測は2日目に黒潮を横断しながら4地点で行います。波浪ブイや乱流 計の設定や投入の準備をしたり、その中で船員さんの華麗なロープワークに感嘆しなが ら、観測点到着を待ちます。

観測点到着後、波浪ブイを投入します。機器や船を傷つけないように注意しながら、船 員さん、先生、私たち学生とみんなで協力しながら作業を行います。波浪ブイの観測で は、海に浮かべて波を測りながら、2カ所の深度での水温、海中の流速を測定します。 波浪ブイを4時間ほど漂流させている間に、水中の乱流の観測を行います。乱流計を水 深約80mまで自由落下させて、乱流や微細な温度構造を測り、船上に引き上げます。乱 流計の測定方法には、落下させながら測る方法と浮上させながら測る方法があるのです が、どのくらいの深度のデータが必要かという希望から、落下方式に決定しました。自 分の狙ったデータを取ろうとすることができるのは、観測の醍醐味だと感じました。乱 流の観測は、学生それぞれが役割を変えながら繰り返し行い、だんだん手際や連携も良 くなっていき、無事に観測を終えました。

夕方になってくると、波が高くなり、船尾の甲板に波が入り込んでくるほどでした。観 測機器や道具が濡れないようにみんなで移動させた後、吉川先生から衝撃の一言 が…「海況がこんな状況なので、チョッサーとも相談して、明日のCTD観測は3時半か らやります」え、午前3時半ですか…?最初の予定も午前6時開始で、早いなあと思っ ていたところでしたが…横に大きく揺れる船内で、翌朝の作業に備えて寝ます。


甲板でのラジオ体操

流速計投入の様子

乱流計投入の様子

波浪ブイでの観測

2日目 7/29

2日目の観測は、黒潮を横断しながら4箇所でCTD(Conductivity Temperature Depth profiler)を海中(3地点で水深1500mまで、1地点のみ水深3000mまで)に投入し、水 温、塩分、圧力を計測する、という内容でした。学生は甲板での作業グループとブリッ ジでのオペレーショングループの2組に分かれて作業をしました。1日目にセカンドオ フィサーからご指導いただいた通りに甲板組がCTDのセッティングをし、ブリッジ組の 指示によってウィンチでCTDを海中に沈めていく、という流れで観測が行われます。前 日の通告通り朝3時半に第一観測点で作業開始。夜の海から眺める星空は綺麗なんだろ うなぁと期待していたものの、船尾では作業用のライトによってむしろ明るすぎて星空 を眺めることはできず。CTDを投入する前に海を眺めている時、船員さんが網を持って 海水をさっとすくうと、なんとなんとトビウオが網の中にいました。このトビウオは船 員さんも見たことがないらしく、もしかすると世紀の発見に立ち会ったのではないかと 胸を躍らせたものです。

各水深での物理量はタイムリーにブリッジで確認することができたため、投入後は甲板 組もブリッジまで上がり、データから地点ごとの混合層の深さを比較したり、中間層水 の存在を指摘したり、観測内容を知識や研究内容と結びつけながら楽しみました。作業 が終わった頃には曙の空がとても美しく、なんて素晴らしい朝なんだと感動しながら第 二観測に備えて二度寝しました。慣れない船上生活では余裕のある時間は「寝る」に限 ります、きっと。3地点目では水深3000mまでCTDを沈め、沈めていく中でRMS(Rosetta Mounting System)というシステムによって6回ほど採水を行いました。この採水された 水に溶存酸素測定キットを使って、各水深での溶存酸素濃度を測定しました。簡易的な キットではありましたが、私たちの知っている北太平洋での水塊の鉛直構造を再現する ような結果となったため、ここでも観測と知識を結びつける良い経験をすることができ ました。2日目は波も穏やかになっていたこともあり、計4地点でのCTD観測は円滑に 終わりました。そして船は3日目の入港に向けて発進。あともう少しで美しい海原の景 色ともお別れかと思い、寂しくなりましたが、そんな気持ちの余裕が生まれたのも船酔 いに慣れてきたから。西方向に航路をとっていたこともあり、まるで夕陽に向かって進 んでいるかのようで「OSHARE」でした。一方その頃Oくんは喫煙所で船員さんと少しお 話をしながら広大な海を眺め、「自分なんてちっぽけな存在なんだなあ」というありき たりなことを感じていました。


CTD機器を海洋から引き上げているところ。上から吊るされているので揺れないように抑えています。

CTD機器を海に沈めようとしている様子。いってらっしゃい。

水中に沈んだCTD

CTD機器に取り付けた採水機から深層水を採水しているところ。

水圧によってカップラーメン容器が圧縮されている様子。教科書で見たことがありますね。

デッキからの夕焼け

3日目 7/30

3日目もこれまで通りラジオ体操と船内清掃から1日が始まりました。出港の時もそう でしたが、入港作業でも船員さんたちの洗練された動きに目を奪われました。ランチャー で綱を港の人に送ったり、カウボーイみたいに綱を投げ込んだり、忙しなく動いている けど無駄のない一つ一つの作業により、無事に着岸し、荷物搬送もスムーズに進んだこ とから、当初の予定よりかなり早く積み下ろし作業や風速計の撤収が終わりました。船 員さんたちの連携が素晴らしかったことはもちろん、今回の航海実習を通じて学生内の 団結力もより高まったように感じます。3日間船酔いしなかったHくんは丘揺れも感じ ず、最強でした。最後に4日間お世話になったチョッサーと船の前で記念撮影をしてか ら、先生方の安全運転で京大へ。恒例のSA巡りはこの時期ということもあり、一つしか 行けなかったのは少し残念ではありました。


着岸後、勢水丸の前でチョッサー(一等航海士)と記念撮影。