勢水丸実習航海(2023/11/6-9)

2023年11月6日〜9日、三重大学生物資源学部の勢水丸で行われた海洋観測実習の日記です。

0日目 11/6

三重大学の練習船「勢水丸」での海洋観測実習が、いよいよ明日から始まります。 今年の実習は海洋物理学研究室から学生5名と教員2名、お隣の気象学研究室から学生3名、そして三重大から学生1名の計11名が乗船します。

朝9時前に京大に集合し、荷物を積んでいざ出発です。 まずはゾンデに関する荷物の回収のため三重大に寄って、そののちに松阪港に向かいました。 港につくやいなや協力して船に観測機器を運び込みます。積み込みが済むと、一等航海士さん(チョッサー)による安全講習が行なわれました。 安全講習では、共同生活においてのルールのほか、船という陸から離れたところならではの決まりも数多くありました。 中でも、船の上では口笛を吹かないようにするという面白い教えもありました。 口笛の音が風の音に似ているので、それによって風が強くなって波が高くなるという船乗りならではの習慣で興味深いものでした。

続いて、持ってきた観測機器の準備を行います。三重大のHくんからゾンデの説明を受け、みんなで取り付けをします。 普段自分は観測機器にあまり触れない研究生活をしているので、落ち着いて機器の説明・準備を行うこのときのH君にとても頼れる男だなあという印象を感じました。

諸々の準備が終わると、夕食+陸での最後の買い出しのために市内に繰り出しました。 ここで夜食用の飲料や食料などを買っておかないと、船の上ではどうしようもないので、のちのち困ることになります。 自分は楽観的だったので酔止めの薬は持っていかずに航海に臨もうとしていたのですが、松阪港に停泊する船上でさえ気分が悪くなる予感がしたので、滑り込みで薬を購入しました。 この買い出しがなかったら、苦しさが増していたと思うと、この決断は英断だったなと思います。

夕食にはみんなで寿司を食べました。 普段は京都という比較的海から遠いところにいるので、新鮮な海の幸に大いに舌鼓を打ちました。船に戻ってきて、明日の航海に向けて気持ちを巡らせながら就寝です。


今回乗船した勢水丸

アンテナの取り付け

1日目 11/7

緊張していたのか、めざましよりも早く目が醒めました。6時半からラジオ体操と船内清掃を行い、朝食をとりました。ラジオ体操は久しぶりでしたがきちんと憶えていました。この日はいよいよ出港で、地面を離れるという不安と非日常に対する期待が私の気分を上下しました。出港時は各自配置について見学します。私は船橋(ブリッジ)で船員さんが声を掛け合って舵をとる様子を見学しました。

この日は当初の予定では伊勢湾を出て観測点C1まで移動するはずでしたが、波が高かったので伊勢湾のなかで観測の練習をすることで明日に備えることになりました。CTD(水温や塩分などの鉛直方向のプロファイルを測定する測器)や流速ブイ(海面近くの流速を測定する測器)の説明を受けたあと、昼食はお待ちかねのカレーライスでした。とても!おいしかったです。おいしいからといって食べすぎると酔ってしんどいよ、という先輩の(経験に基づく)注意を無視しておかわりをしました。食べられるうちに食べておいたほうがいいという不穏な意見もありました。

午後はよく晴れて、空は淡青、海は濃青。船体の白がよく映えていました。練習観測が始まり、甲板でCTDを目視で確認する班、ブリッジでCTDの昇降を指示する班、流速ブイを投入・回収する班に分かれました。水温や塩分の鉛直プロファイルがリアルタイムで表示され、教科書で見るような混合層や躍層が確認できました。混合層の深さは70m程度でした。流速ブイは流されるのがはやく、回収が大変でした。観測が終わると、日は傾いていました。日没を見届け、夕食をとったあとは、大気海洋境界層についてとロープワークについての講義を受けました。ロープワークとは、ロープでものを固定するときやロープとロープをつなぐときの結び方のこと。船員さんに手取り足取り教えていただきましたが、いくつもの結び方を憶えるのは難しくロープも頭もこんがらがってしまいました。

これにてこの日の作業は終了です。明日はいよいよ伊勢湾を出て本番の観測です。元気に観測を全うするために早く寝ます。


甲板でのラジオ体操

ブリッジでCTDの指示を行うF君

流速計を持つH君。これをブイにつけて浮かべて海中の流速を計測します

流速計の投入の様子

ロープワークの練習

2日目 11/8

観測実習 2 日目です。予定では 1 日目のうちに C1 ポイントまで移動しておくという予定だったのですが、波が高かったので断念し、2 日目の午前中に移動をすることになりました。自然を対象とする観測ではうまくいかないことのほうが多いそうです。ただ、今日は本格的な観測が実施できそうです。今回は 3 つの観測を行います。1 つは CTD による海洋内部の温度や塩分の観測、2 つ目は vector による流速の観測、3 つ目はゾンデによる大気の観測です。CTD と vector は4点、ゾンデは 3 点で観測を行う予定です。

本日も体操と清掃を行い、朝食をとり、観測点に向けて出発しました。お昼ごろに C1 の観測点につきました。学生は CTD のブリッジ班とデッキ班、vector 班に分かれて作業をしました。ブリッジ班は CTD の上げ下げや水の採取の指示を出す役をしています。無線のラグ等も考慮して、目標深度の手前から細かい指示を出します。デッキ班は CTD を投下したり回収するときに CTD が船にぶつからないように手で支えたり、デッキで採水をし、海面温度、水色の観測を行いました。vector 班はブイが船にぶつからないように慎重に投下し、波の様子などを見ながら回収しました。どの作業も慎重に行なわなければならず、みんな楽しみながら集中して取り組んでいました。

観測点間の移動中にはラジオゾンデと呼ばれる測器をバルーンに括り付け、高層気象観測も行いました。 三重大の H くんに操作を教えてもらいながらバルーンを放球しました。実際にデータがパソコンに送られてきている様子は非常に面白く、大気の逆転層のようなものを確認できたので、観測をしているという実感がすごくわきました。

観測点 C2 につく頃には非常に波が強くなっており、学生の半分がダウンしてしまい。半分の人数で観測をすることに。特にデッキでの作業では、船体が 30 度も傾くこともあり、その辺りの物が何度も転がっていき、メモを取る際には文字を見ないといけないので酔いそうになったりしました。かなり大変でしたが先生や船員の方のご協力もあり、何とかしっかり観測できました。3 回目のバルーンの放球の際には機器が船にぶつかってしまい、観測することができませんでした。改めて私たちが取り組んでいる地球物理学の観測の難しさを痛感しました。

時間的に 4 点目には向かうことができなくなってしまい、帰港することになりました。就寝前にはデッキに出て満点の星空を見ました。流れ星も見れて幻想的な体験ができました。


CTDを投下

広大な海に浮かびながら観測しています

いざバルーンの放球

海の上でたゆたう流速ブイを眺めるI君

外洋での揺れの大きさゆえにダウンする人々

CTDに取り付けた採水ビンから水を取り出す様子

3日目 11/9

最終日になりました。波も前日とは比べ物にならないほど収まり、帰ってきたという実感がわいてきました。船内清掃と食事をすませて、松阪港に帰港です。入港作業を見学させていただきました。縄の受け渡しや、岸との距離調整など、素早く、そして正確な入港作業に学生はみな興味津々でした。観測航海に関わっている人の多さと、その技術のすばらしさを実感できた実習でした。着岸後は観測機器を降ろし、ベッド等を整え、船を後にしました。久々の陸で、地面が揺れないという安心はありましたが、自分は地面がまだ揺れている感覚があり、今回の航海の大変さを物語っていました。船の前でお世話になったセカンドオフィサーと写真をとって京都への帰路につきました。その日の昼食は鰻を食べ、途中の伊勢でお土産を買い、大学へと帰ってきました。


着岸後、勢水丸の前でセカンドオフィサー(二等航海士)と記念撮影。