勢水丸実習航海(2022/11/6-9)
2022年11月6日〜9日、三重大学生物資源学部の勢水丸で行われた海洋観測実習の日記です。
0日目 11/6
明日から三重大学の観測船「勢水丸」に乗って海洋観測実習が始まります。 朝9時、京都大学を出発して松阪港へと向かいました。 今回の実習は海洋講座から学生3人、教員2人、宇治の防災研から2人、三重大から1人、合計8人が乗船します。 途中三重大へ機器を取りによった際に、大学前の道路が駅伝のため交通規制がされており少し足止めを食らいました。 常々、K先生は観測では思い通りいかないことがままあるとおっしゃっていましたが、いきなり体感することになりました。
松阪港に着いたら全員で協力してくるまで運んできた観測機器たちを船に積み込みます。 作業が終わると、一等航海士(チョッサー)の方による船内教育の時間です。 前泊を含めて3泊4日の航海期間中は、船から出ることはできないので、学生であっても船員さんと合わせた、1つのチームの一員として行動することが求められます。 そのため、船の上で共同生活についての指導や、非常時の行動について教わることになります。 また、普通の共同生活と異なって、船上ならではのルールがいくつか存在します。例えば海上では飲料水を確保できないので、水は大変貴重な物になります。 そのため、普段以上に節水に気をつける必要があります。タイタニックを連想させるためお酒はロックで飲まないなどのジンクスのようなものもいくつか存在し非常に興味深かったです。 安全教育後、ゾンデから出る電波を受信するアンテナとオペレーションするためのあれやこれやの設営を行って0日目の作業は終了。
観測準備が完了した後は、買い出しと晩ご飯のために、松阪の街に繰り出します。 この買い出しは、いわゆるゴチのラストオーダーのような物で、出航前の最後の買い物になるので、必要な夜食やおやつなどを買っておく必要があります。 晩ご飯には、うな丼を食べに行きました。ネットで見つけたお店に行き、たいへんおいしいうな丼をたべることができて、とても満足しました。やっぱり食べログは間違いないですね。 明日以降に備え早めに寝ることにします。去年の航海では時化ていて伊勢湾から出られなかったので、今回は波が穏やかで無事に行けるようにと祈っています・・・
今回乗船した勢水丸
1日目 11/7
朝6時に起床して6時半からラジオ体操、船内清掃を行いました。 朝からすごく良いことをした清々しい気分になりました。 朝食をとり休憩したのち、出港式を行いました。出入港の際には、学生も含めて全員配置につく必要があります。 僕は船橋(ブリッジ)に配置され、船員の方々が舵をとり、速度の調節をしている様子を見学していました。 主に船長が指示を出し、その指示を復唱してキビキビと操作を行う船員さんの様子はとても頼もしく格好良かったです。
無事出航したのち、10時ごろから二等航海士(セカンドオフィサー)の方による船内案内や、 明日の観測で使用するCTDという海に沈めて水温や塩分などの鉛直プロファイルを測定する測器についての簡単な説明を受けました。 その後また作業をしているうちにお昼ご飯の時間になりました。カレーライスがとてもおいしくて、ついおかわりしてしまいました。
そして無事に伊良湖水道を抜けて、念願の伊勢湾からの脱出に成功しました。 太平洋に出ると、船の揺れ方が変わって、ゆっくりと大きな揺れになりました。 また、このあたりから陸を離れるので、ぎりぎり3Gで電波が入っていましたが、ついに圏外になりました。 移動中はK先生からお借りしたスタビライザー付きのカメラで海洋の様子を撮影したり、三重大のHくんとだべったりしながら、船首から海を眺めていました。 快晴で風もあまりなくとても心地よかったです。 15時半ごろに1つ目の観測点に到着し、波浪ブイを海に投下しました。 投下して1分ほどでもう40mほど船から離れたところまで流されていました。このブイには見失わないためのGPSブイや、目印になるような旗がついています。 この旗を僕らは全然見つけられないのに、船乗りの方々はすぐに見つけられるそうです。 作業後は地衡流計算と境界層についての簡単な講義を受け、1日目は終わりました。
A君は講義中に急に酔いが来たと言っていたので、自分もいきなり酔うかもしれないから気をつけようと思いました。 この日記をしたためている夜の間も、ずっと船がゆれているので寝付けるか心配です。 明日は観測が立て込んでいてかなりバタバタしますが事故なく最後まで終われるよう頑張ります。
甲板でのラジオ体操
観測点に向かう途中で日なたぼっこをするT君
お昼ご飯のカレーライス
波浪ブイ投下の様子
2日目 11/8
今日は、昨日投下したブイを揚収して、それぞれの観測点でCTDやゾンデによる観測を行う日です。 夜の間に波浪ブイが大きく南西方向に流されてしまったようで当初の予定していた観測点に戻るのに1時間ほどかかり、時間が押してしまうために測線が変更となりました。 やはり相手は大海なのでなかなか思い通りにはいきませんね。 今日も天気は快晴で、ラジオ体操の時間には、東の空にきれいな朝日が昇るのが見えました。
清掃や朝食を済ませたら、早速最初の観測点でCTD観測を行います。 学生は、ブリッジ班とデッキ班に分かれて作業します。ブリッジ班は、無線を使って、デッキ班やウインチを操作する人に指示を出し、観測された値を記録します。 CTDが目的の深度で停止するようにストップの指示を出す必要があるので、最初は緊張しました。 デッキ班は、CTDを投下したり回収するときにCTDを支えたり、船尾で採水や目視による透明度、水色の観測を行います。太平洋の水は、伊勢湾の中の水と比べて、青い色をしていて透明度が高いことがわかります。 昨年の観測は湾内だったので、海底まで高々数十mと観測はすぐに終わったのですが、今回は深さ1800mまでCTDを下ろしたので回収まで1時間もかかりました。 Y先生と今日のお昼ご飯は何かなと雑談したりしつつ、オペレーションをしました
3点目では、CTDに採水管をセットして、温度や塩分の測定と同時に深層水の採水も行いました。 採水管の操作もデッキ班のパソコンで行いますが、難しい操作は全く必要なくボタン1つ押せば採水できます。 採取したいろいろな深さの水を用いて溶存酸素濃度の測定を行うと、浅い海水ほど酸素濃度が高いという結果になりました。 これは、おおよそ理論と一致する結果ではありますが、実際に測定を行って確かめることができるのも貴重な経験です。 4点目は風速14m/sとかなり強く、船体が大きく揺れるためにCTDではなく、XCTDという海況が良くないときでも観測可能な測器を使いました。 海洋観測は海況に左右されることが多く、その場に合わせて適切な判断が求められます。時には観測自体が中止になってしまうこともあります。 改めて我々が普段研究対象にしている自然科学の難しさや面白さを感じ取りました。
観測点間の移動中にはラジオゾンデと呼ばれる測器をバルーンに括り付け、高層気象観測も行いました。 三重大のHくんは何度かゾンデのオペレーションの経験があったので、彼に色々頼りつつ観測を行いました。 バルーンを放球した後すぐにゾンデも離さないとゾンデが海に着水してしまい失敗となりますが、3回とも無事に成功しました。 観測結果を見ると、高度25000mほどまでの気象データがとれたようです。 こうして当初の計画とは異なることもありましたが無事にすべての観測を終えました。 この日の夕飯はおいしいハンバーグだったのですがこの時かなり揺れがきつくて割とそれどころではありませんでした。 船に乗っているときは娯楽がほとんどないため、ご飯の時間がとても楽しみなのですがこの時は例外でとてもきつかったです。
なんとか食べ終わりこのまま船内にいるといよいよ酔うなと確信したので、湾内に入り揺れが収まるまでの間デッキに出て星を眺めることにしました。 偶然にもこの日は皆既月食+天王星食という天体ショーの日でした。 皆既月食が起こると、月明かりが減って肉眼で見える星が増えるので、船の屋上にあたるコンパスデッキに寝転がって、リアルプラネタリウムと言わんばかりの夜空に広がる星々を眺めていました。 さらに、学生の部屋に備え付けてある双眼鏡を使うと、青白く光る天王星も見ることができました。 海洋、高層大気、そして天体観測と1日でこれらの観測を行い、地球科学を志すものにとって格別な一日となりました。
採水ビンを取り付けたCTD。クレーンを使って降ろしていきます。
CTDのオペレーションの様子。ウインチを操作している船員の方と無線で連絡しながら、CTDが目的の深さまで降りるように指示を出します。
ゾンデのオペレーションルームの中。デッキ班とも連絡を取りながら、作業を進めます。
デッキ班の様子。ゾンデのバルーンは他の人がおさえておかないと飛んでいきます。
溶存酸素量を計測キットを使って調べます。
XCTDを持っているY君。この筒の中からセンサーが出てきて、深さ1500mの海底まで温度や塩分を計ってくれます。
3日目 11/9
長いようで短かった観測実習も最終日となりました。船内清掃と朝食を済ませて、いよいよ入港です。 入港時も、学生全員がデッキやブリッジに出て、入港作業を見学しました。 自分は、オモテ(船首)で見学していましたが、船員さんたちは、忙しくブリッジと無線でやりとりしながら錨を操作して、縄を岸に投げて、きれいに岸に寄せていました。 船員さんたちのきれいな連携によって、無事に着岸できたので、観測機器を船から降ろして、自分たちが使った部屋もきれいにして船を後にしました。 あれだけ恋しかった陸に降りて開放感や安心感のようなものがありましたが、同時に航海が終わってしまったことに対する寂しさをありました。 最後に、船の前でセカンドオフィサーと記念写真を撮って、帰路につきました。途中、三重大学近くの唐揚げがおいしい定食屋で昼食をとり、亀山SAでお土産を買って京都へ戻りました。
着岸後、勢水丸の前でセカンドオフィサー(二等航海士)と記念撮影。