海洋中の流れと混合
強い風が気流の乱れを引き起こし砂埃を巻き上げるように、風は海の中でも乱れ(海流 の乱れ)を引き起こし、海水の混合をもたらします。この混合により、例えば水温や塩 分などが深さ方向に一様化され、いわゆる混合層と呼ばれる層が形成されます。
海水温は一般に上ほど温かいので、海面付近の海水が下の冷たい海水と混ざると海面の 水温は下がります。大気は海面の水温に影響を受けるので、海洋表層の混合は大気にも 影響を及ぼします。また混合は海水中に溶けている栄養塩を下層から光の届く表層に輸 送するので、海水中の植物プランクトンの増殖にも影響を与えます。ということで、混 合が何によって、どの程度の強さで、どの深さまで起こるのか?が重要な問題となりま す。
地球自転や波の効果
風が吹くと乱れが生じ混合が起こります。海面が加熱され海面付近の海水が温められる と、軽くなり沈みにくくなるため混合が抑えられます。実は、地球の自転も混合を抑え る働きをします!同じ風、同じ熱でも緯度が違うと混合も異なるのです。しかし、地球 自転の効果を無視して議論される場合が良く見られました。そこで、人工衛星やアルゴ フロートと呼ばれる観測データを解析して調べ、地球自転が海洋表層の混合に影響を与 えていることを明らかにしました( 論 文 )。
また風が吹くと波が立ちますが、この波も混合に大きな影響を及ぼしていることが示唆 されています。この効果は気候予測などに用いられる海洋大循環モデルに取り入れられ ていないため、モデルの不確かさの一因であると考えられています。波の効果がどうい うときにどの程度大きいのか、観測と数値実験から明かにすることに取り組んでいます。
混合と流れ
風の摩擦により生じる海面付近の流れを吹送流と呼びます。風が吹くと、どの方向にど の程度の吹送流が生じるか、という初歩的な問題も、混合が関係しているのでかなり複 雑です。昔は(今でも?)風向から(北半球では)時計回りに20ー30度の向きに、風速 の2ー3%の強さの吹送流が生じると言われていましたが、きちんと計測してみると、季 節によって大きく変化していることがわかりました。( 論 文 )
季節変化の原因は混合の季節変化にあるので、その機構をちゃんと調べようと数値実験 を行うと・・・、観測結果を再現しませんでした。何故だろうと数年間ひっそりと悩ん でいましたが、当時の院生が答えをみつけてくれました。季節変化よりももっと短い単 周期変動が重要でした。
大気との相互作用
海洋の混合により海面水温が下がると、気温と水温の差に比例する大気海洋間の熱も変 化し、大気の乱れと海上風が弱まります。海上風の変化は海洋中の混合にも影響を及す ので、大気と海洋は相互に作用します。例えばこのような相互作用を考えると、日射の 日変化の影響が増幅されます。このような相互作用は海洋に広く影響を及ぼすと考えて いるのですが、実態に不明な点が多いです。この影響についても取り組んでいます。
低次生態系への影響
海洋中の混合が光の届く層(有光層)を越えて起こると、有光層下の栄養塩が有光層に もたらされるので、植物プランクトンの増殖します。一方、深い混合は自泳能力の無い 植物プランクトンを有光層の下に運ぶので、増殖が抑制されます。植物プランクトンは 海洋生態系の底辺をなすので、生態系の維持に極めて重要であり、また有害なものは赤 潮と呼ばれる漁業被害をもたらします。海洋中の混合が植物プランクトンの増殖にどの ような影響を及ぼすのか、生物の専門家と共同して調べています。
海洋前線での不安定現象
偏西風ジェットが蛇行して温帯低気圧が生じるように、海洋中のジェット(黒潮続流な ど)も力学的な不安定(傾圧不安定と呼ばれる)により蛇行します。この蛇行時に、様々 な現象が起こります。
海洋亜表層水の形成過程
ジェットのの蛇行時に、海面付近の海水は表層の下(亜表層と呼ばます)に潜り込みま す。例えば海水が吸収した二酸化炭素は、このような潜り込み過程を経て大気の影響の 及ばない海洋内部へ輸送されます。従って、いつ、どのように、どれだけ海水が潜り込 むのかが重要な問題となります。主に数値実験を行うことで、このような問題の解明に 取り組んでいます。 ( 論 文 )
低次生態系への影響
ジェットの蛇行時に海面付近の海水が亜表層に運ばれますが、同時に亜表層の海水は海 面付近に輸送されます(海水が入れ替わる)。この亜表層からの海水輸送に付随して、 栄養塩が有光層に運ばれると、光合成が行われます。この光合成により二酸化炭素が吸 収されるので、二酸化炭素の収支にも重要です。しかし場合によっては、亜表層の海水 の輸送が無い方が光合成が進む事例もあります。どのような場合に植物ブランクトンの 光合成が起こるのか、海洋中の鉛直循環と植物プランクトンの増殖の関係について、生 物の専門家と調べました。 ( 論 文 )
渦と平均流
黒潮続流のようなジェットは、蛇行が発達すると渦を形成します。渦は数100km程度の 大きさなのですが、渦と渦が相互に作用すると、もっと大きな流れを作ることが知られ ています。
深層水形成に伴う渦成循環
高緯度で重くなった表層海水が沈むことで、海洋の深層循環が形成されます。大西洋で はグリーンランド付近で沈み込みが生じ、沈み込んだ海水は太平洋やインド洋に運ばれ ます。このような循環は深層循環と呼ばれ、ストンメルの提唱した理論により説明でき ます。一方、日本海でも同様の深層循環があると思われていたのですが、観測してみる とストンメルの理論と違う構造となっていました。その理由は渦でした。渦が深層の流 れを作る仕組みを調べました。( 論 文 )
その他
対流の力学に関する研究対馬海峡の海況に関する研究
日本海の深層流に関する研究